パニックとショックの基礎知識パニックやショックが、人間の心身に影響を与えるパターンが変わってきている。かつてのようなレベルの「ショッキングな事態」に失神するようなやわな人間がいなくなった一方、想像もつかないような「ショッキングな事態」が起こっているのだ。 ◆ショック shock本誌1952年版収録。以下、
急激に起る、個体の全生活機能の低下で、虚脱に似るが、心臓の侵された直接症状がない。恐れ、驚き、喜び等、激烈な興奮によって精神的に起ることあり、これは多くは一時的である。たとえば不意に砲撃を聞いたり、冷水に落ち込んだりするときに発生する。また外傷によることあり、火傷や射創を受け、胸、腹、睾丸などに鈍性の外力が加わったときなどである。ショックに陥ると体カは急に衰え、筋肉の緊張は減って肢体が緩み、運動や知覚の作用が減ずるが、意識は保たれる。軽症だと皮膚が青白くなり、脈拍や呼吸はおそくなるが、重症のときは身体が冷えチアノーゼが現れ、吐き、脈拍は小さく不規則に、呼吸浅く、体温下って、ときにそのまゝ死亡する。 ◆ショック死ショックを原因とする死亡には、毒物・劇物による中毒性のもの、抗生物質・ワクチン等による薬物性のもの、外傷や火傷の疼痛による神経性のものなどがあるが、もっとも事故的であるのは、精神性のショック死である。1958年、フレッド・ブラッシーと力道山のプロレス中継を観ていた老人が、出血シーンでショック死したのは、最近は聞かれないタイプの有名な例である。 ◆パニック panic経済恐慌。急激な大変動。群集の混乱状態など。ギリシャ神話の牧神パン(Pan=ローマ神話ではファウヌス)からでた言葉。パンは山羊の脚と角をもつ半獣半人で、好色をもって知られる。彼は気持よい午後のねむりを妨げられると非常に立腹して,人や家畜を恐慌状態に陥れたという。 ◆ペニシリン・ショック penicillin shock本誌1966年版収録。以下、
ペニシリン投与によって生じるアレルギーの高度のもので、アナフィラキシー・ショックを起こすもの。極めて稀にしかおこらず、確率からいうと数万回の注射のうち1回以下というが、それでも他の抗生物質よりも起こしやすい。注射後多く数分以内にしびれ、全身のかゆみ、呼吸困難、チアノーゼなどを生じ、ついで意識を失い虚脱状態に陥る。ときには死亡する。治療をしてアドレナリンや抗ヒスタミン剤の注射や副腎皮質ホルモン、酸素吸入、人工呼吸などがおこなわれる。予防として、ペニシリンの少量をあらかじめ皮内注射してみて、反応のおこらないことを確かめておけばよい。昭和31(1957)年5月尾高東大教授がショック死をしてから世人の注目をひいている。 ◆電気痙攣療法本誌1958年収録。以下、
電気ショック療法。精神分裂病にたいしインシュリン衝撃療法と同様の効果を示すが、方法として一そう簡便であるため、今日広く行なわれている。湿した電極を額の左右に当て、約100ボルト200ミリアンペアの交流を、2-4秒間通電する。ただちにテンカンに似た痙攣発作を起こす。1週2回ずつ10−20回行なう。しかし、本療法もインシュリン衝撃療法も分裂病の原因療法ではないから確実な根治は望めない。 ◆失神/気絶脳の血流低下によって起こる一過性の意識消失。脳貧血とも。しばしば興奮状態やストレス状態から起こる。失禁や痙攣を伴うこともある。 最近は聞かれない「コンサートでの失神」というものが“流行”したのは、1968年、グループサウンズ・バンド「オックス」(失神バンドの異名をとる)によるもの。キーボード担当の赤松愛がステージ上で失神すると、それに連られて失神する観客(もちろん少女)が続出、という集団催眠的状況をさす。 ◆失神本誌1970年版より〔1967年のことば〕。以下、
女優の応蘭芳が、インタビューに答えて「私って失神するの」と発言、にわかにクローズアップされた言葉。続いて、セックス作家の川上宗薫が、失神作家と呼ばれた。もちろんこの場合の「失神」は、女性の恍惚の極致にみられる現象ではある。 ◆パニック・ディスオーダー(パニック障害) Panic Disorderこのパニック障害は、広場恐怖症をともなうか、ともなわないかに分けられ、それにより、だいぶ治療の様相も異なってくる。広場恐怖症をともなう場合の治療はきわめて難しい。投薬としては抗不安薬を使うのが常識であるが、抗うつ剤のクロミプラミンを使ったり、最近ではフルボキサミン(ルボックス)などのSSRI(選択的セロトニン再吸収阻害物質)を使うこともある。抗うつ剤のパキシルも使われている。広場恐怖症をともなわないパニック障害も薬物療法は同じである。しかし、広場恐怖症をともなうパニック障害となると薬だけでは難しく、やはり外へ行く練習を行動療法、あるいは暴露療法というように、軽い段階から自分が苦痛を感じる段階まで少しずつ慣れさせる。 また広場恐怖症をともなわないパニック障害も外へ出られるように行動療法的な暴露療法が必要であるが、広場恐怖症をともなうパニック障害よりも比較的治療は楽だといえる。 |
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