ベストセラーと「社会・時代」◆日本列島改造論1973年版本誌掲載。以下、
1972(昭和47)年、田中角栄の著書の題名。刊行翌月に総理大臣に就任するとたちまちベストセラーになった。政府が都市問題を争点にすえたのはこれが初めて。この議論の骨子は、人口と産業の地方分散によって、60年代を通じて顕著になった過密と過疎の問題の同時解決をはかろうとするところにある。首相就任後、すぐに具体的な計画の実行に取り掛かるが、急激なインフレやオイルショックによって計画事態は失速していった。しかし、これが現在いわれる道路行政の発端であり、またこれ以後、政治家による選挙区への利益誘導型の公共事業が定着することになったといえる。「日本列島改造」という言葉自体のインパクトも大きく、○○改造論は、さまざまな形で流用された。 ◆日本沈没1974年版本誌掲載。以下、
1973(昭和48)年に発刊された、日本のSF小説の第1人者といわれる小松左京の大ベストセラー小説。197X年に、日本近辺の地殻の変動で火山爆発や大地震が発生し、わずか数カ月のうちに日本列島が海中に没してしまうという大スペクタクル。こう書くと絵空ごとのようだが、このブームの最中に、小笠原近海の海底火山の爆発、根室沖の地震、関東平野の大活断層の発見など、小説の内容を裏付けるような自然現象が発生し「あるいは・・・」の感を抱かせた。 ◆複合汚染1977年版本誌掲載。以下、
1975(昭和50)年の有吉佐和子の小説の題名でクローズアップされた語。「恍惚の人」とともに、時代の言葉として流行した。この小説によると、現在の農業は化学肥料で土地は衰弱しており、作物は農薬まぶし、加工食品は各種の防腐剤、着色料で危険がいっぱい。しかもそれら一つひとつのおそろしさに加え、これが複合して毒性が相乗作用を起こしたらどうなるか、いまのうちに研究しないと大変な公害が起こるのではないかと訴えている。これに対し役所側の見解は、農林省は「汚染が持続する水銀農薬などは世界の学者が危険だと警告した時点で製造中止にしているし、いま使っている農薬はほとんどがすぐ分解するものに切り替えられている」。厚生省は「現在のように多量の食品を遠隔地まで輸送する供給体制ではある程度の防腐剤も必要。カマボコを作った日に食べていた時代とは違う。それに現在の科学水準で確認されている安全率の100分の1の量に抑えてある。なお相乗毒性については研究を始めている」など。 ◆不確実性の時代1979年版本誌掲載。以下、
1978(昭和53)年発刊の、有名な経済学者ガルブレイスの同名の本(原題は“Age of Uncertainty”)がベストセラーとなって流行した言葉。内容は経済学の歴史をよりわかりやすく説いたものあるいはビジュアルに説いたものだが、タイトルがよほど時代にマッチしていたのかベストセラーとなった。 ◆積み木くずし1982(昭和57)年、非行に走った娘を題材に俳優の穂積隆信が書いたベストセラー。ドラマに主演した高部知子は自身の非行ぶりを週刊誌に暴露されスキャンダルとなった。83年には、非行少年、登校拒否児を更生させる教育界の救世主とまで言われた戸塚ヨットスクールの校長らが傷害致死容疑で逮捕される事件が起こるなど、社会的にも校内・家庭内暴力が大きな問題になっている時期であり、「積み木くずしする」や「積み木くずしになる」といった言葉が使われた。モデルとなった穂積由香里さんは2003(平成15)年35歳の若さで心不全で亡くなっている。 ◆「NO」と言える日本石原慎太郎と盛田昭夫の共著『「NO」と言える日本』(1989年・光文社刊)が出版され、ベストセラーとなった。「これからの国際関係は協調だけではなくNOと言うことも必要」というのが本の主旨だが、国際派として知られる両者の発言だけに反響は大きく、反米主義の台頭ではないかと物議を醸した。タイトルをもじって「NOと言える○○」が使われ、流行語となった。 ◆年収三百万円時代2003(平成15)年「年収300万円時代を生き抜く経済学」(森永卓郎・著)がベストセラーに。小泉政権の構造改革によって、アメリカのようにほんの一握りの金持ち階級と圧倒的多数の低所得層とに日本も今後分けられていく、という氏の理論のもとに、年収300万円で生きていく法を展開。年収1000万円をめざす、というラインが若者の憧れとしてあった時代から、年収のキーワードが300万円となり、世間の節約ばやりとともに、生活実感だけでなく言葉の上でも不況を感じさせられたとともに、具体的に将来を考えさせられた。 |
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